ロスト・クロニクル~前編~
「ほら、持てるか」
店主はエイルが持ちやすいようにと、店主は山積みの本を縛ってくれた。確かにこの方が持ちやすいが、本が軽くなったというわけではない。積まれた本の高さに内心「買いすぎた」と思うエイルであったが、支払ってしまった手前返却はできない。それに、全て必要な本だ。
「こんなに本を買わないといけないのか?」
「どのような意味でしょうか?」
「メルダースの勉強は、難しいのか?」
「はい。とても……」
「そ、そうか」
店主の質問に、エイルは苦笑いを浮かべていた。あの授業を難しいと言わなかったら、何が難しいというのか。そう思ってしまうほどメルダースの授業は高度で、全部を理解する方が困難だ。
「君のように、大量に本を購入する生徒が多くて不思議に思っていた。そうか、そんなに難しいのか」
その意味深い台詞にエイルは首を傾げると、何か悩み事があるのかと店主に尋ねる。すると店主は、自分の孫がメルダースに入学することを目標に勉強しているということを話してくれた。
「そうでしたか。メルダースでは、予習復習は当たり前です。そうしなければ、覚えきれません」
流石、苦労している者の言葉。其処には重さを感じ、メルダースという学園の内情を伝える。エイルの言葉に店主は溜息をつくと、もう少し詳しくメルダースの内情について話してほしいと頼む。勿論、エイルが断る理由はないので、丁寧に学園生活の厳しさを話していく。
「どちらの分野を目指しているのかわかりませんが、入学試験から大変なことには代わりません」
「孫は、魔導師を目指したいと言っている。なんでも立派な魔導師になって、世界を旅したいと――」
「それでしたら、ある一定の魔力を有していないと無理です。入学志願者は後を絶ちませんので、魔力が低い者を受け入れる余裕がないと聞きます。それはメルダースに行けば、調べてもらえます」
「そうなのか」
試験を受ける以前に、このような決まりがあったとは――店主はそのことを知らなかったらしく、驚いた表情を見せていた。これも、世界一と謳われるメルダースならではの特徴だろう。中途半端な人物は、最初からいらない。そもそも、学ぶ権利を与えられないのだ。