ロスト・クロニクル~前編~
想像以上の厳しさに店主は、孫に諦めるように伝えると言いはじめた。しかし諦めるのは早く、魔導師が無理としても研究者を目指すという手もある。そのことを店主に伝えると、今度は逆に渋い表情を見せた。
「これも、難しいのだろう」
「はい。確かに……」
この分野に魔力は関係ないが、最低限の知識を要求される。無論、読み書きは必需。これができなければ、試験を受けることができない。また、その最低限の知識というのは、一般の枠に嵌めてはいけない。
これもまた「メルダース」という名前が関係しているのか、大人並みの知識を有した志願者が大量に集まってくるので、普通に勉強しているだけでは入学試験で落とされてしまう。
それを見事に合格したラルフは、様々な意味で凄い人物。若くして沢山の品種改良を行うだけあるが、それにより多くの者に迷惑をかけているのは事実である。だがそのくらいの知識と技術を有していなければ、入学が難しいのもまた事実であったが、エイルは決して認めない。
「やはり、諦めさせよう」
「……そうですか」
孫という人物がどれだけの魔力と知識を有しているかわからないが、生半可な気持ちで入学を目指すのなら止めるべきだとエイルは思う。何より運良く入学してしまったら、後が大変だからだ。
時間を惜しんでの勉強の日々。大げさとも思われるが、エイルはそれを行っている。いや、エイルだけではない。多くの生徒が、同じことを行っている。ただ一人を除いては――
正直、勉強嫌いな人物がメルダースを目指すのは無謀過ぎる。一年を持たずに学園を去る者が多いのは、これが関係していた。最低でも五年。この生活を続けないといけないのだから、おかしくなってしまう。
「参考になった。有難う」
「いえ、お役に立ててよかったです」
「メルダースの生徒の苦労がわかったよ」
「そう言って頂けると、嬉しいです」
それは謙遜が含まれた言葉であったが、心の中は違う。何故なら、メルダースの生徒の評判の悪さが関係していた。
最高の学問を――と言われて有名なメルダースであったが、其処で学ぶ生徒を冷たい目で見る者がいる。その原因となるのが、生徒の暴走。つまり、魔法や研究がおかしなことで影響を与えているからだ。無論、学園外での魔法の使用と実験・研究は禁止されているのだが、中には悪い生徒も存在する。