ロスト・クロニクル~前編~
メルダースの光の部分は、学問と名声を求める者達が集まる場所。そして闇の部分は、素人による迷惑行為。だがそれを知っているのは、生徒相手に商売をしている人物達だけだった。
「君は、いい人だ」
「そうでしょうか?」
「以前の生徒は――」
その言葉に、エイルは苦笑いを浮かべてしまう。この店主も、メルダースの生徒に良い印象を持っていなかった。しかしそのような感情を持っていようとも、メルダースを目指す者が途切れない。それに悪い印象を持っていようとも、自分の子供や孫を入学させたいと思っている。
「お陰で、見方が変わった」
「それは、有難うございます」
「君は、面白い生徒だな。そうだ、何か必要な本はあるかな。あれば、特別に取り寄せよう」
「いいのですか?」
「なに、数人の生徒が同じことをしている」
「それ、知りませんでした」
何回も利用している本屋だというのに、そのようなことが行えるとは知らなかった。それを知った瞬間「早く教えてほしい」と思うエイルであったが、それを口に出せる内容ではない。
「それでしたら、歴史書をお願いします。薄い本より分厚い本がいいです。読み応えがありますので」
「なるべく早く届くようにしよう」
「それと普通の歴史書とは別に、もう一冊お願いします」
意味深い言葉に、店主は首を傾げてしまう。エイルが欲していたのは、特定の国の歴史書。それも故郷であるクローディアのことが書かれた本で、全ては将来のことが関係している。
「特定の場所となると、時間がかかるだろう。それでも構わないというのなら、取り寄せるが」
「構いません」
「届いたら、学園に連絡する」
「有難うございます」
エイルは深々と頭を下げると、店を後にすることにした。その後ろ姿に店主は手を振ると、満面の笑みでエイルを見送る。上客に、愛想を振り撒いている――という見方もできなくもないが、商売をする側も必死なので、エイルに愛想笑いと気付かれていてもそれを続けていた。