ロスト・クロニクル~前編~
エイルは重い本を抱きかかえつつ、メルダースに向かい歩き続ける。その姿に行き交う人々は驚いたような視線を向けるも、メルダースの生徒とわかった途端、急に納得してしまう。
(はあ、買いすぎた)
両手に掛かる重みに、エイルは溜息をついていた。いくら必要とはいえ、もう少し計画的に購入すれば良かったと後悔する。だが買ったからには、最大限利用しなければ勿体無い。
しかし、別の意味で問題が生じる。それは、購入した本を借りに来る生徒がいるということだ。いかんせんこの学園の生徒全員が金持ちではないので、横の繋がりが必然的に生まれる。そのひとつが物の貸し借りであるが、エイルにしてみたら物の貸し借りは迷惑であった。
それは貸した相手から、なかなか貸した物が返ってこないのだ。そのような場合は、強制的に返却してもらう。つまり、脅しをかけるのだ。それでも返してくれない場合は、部屋に乗り込む。
別に、貸し借りが悪いというわけではない。ただ「友人関係」ということを全面に出し、他人を利用するということが気に入らなかった。それに綺麗に使ってくれるのならいいのだが、全員が全員綺麗好きとは限らない。中には汚くして、そのまま返してくる生徒もいるほどだ。
やはり借り物は綺麗に使うものだが、一部のずぼらな生徒の行動にエイルは頭痛を覚える。特にラルフが酷く彼に貸した場合、なかなか返ってこない。そして尚且つ、汚して返却する。
一番酷い時は、ページの間に食べ物のカスが大量に挟まっていた。勿論、ラルフに手刀をお見舞いしたのは言うまでもない。それに必要となれば、図書室から本を借りてくればいい。それに滅多なことで図書室の本が全てなくなることはないので、楽に借りることができる。
だが図書室から借りるとなれば、返却の期日が決まってしまう。無論、友人同士の貸し借りも期日は決まっているが、それほど厳しいものではないので、何ヶ月も借りる人物がいたりする。
相手の好意に付け込み――というのは正しい言い方ではないが、友人同士の貸し借りであっても期日は守ってほしいもの。エイルの考えは厳しいと思われるが、それが世間一般では当たり前とされている。だからこそあの件から、ラルフには絶対に物を貸さないと決めていた。
ふと、ラルフのことを思い出す。あのジグレッドに捕まっているのだから、そう簡単に逃げ出すことはできないだろう。それに逃げ出したら、結末は予想できた。あのラルフであれ、そのことはわかっている。そうなると、素直に長々とジグレッドの説教を聞いている確立が高い。