ロスト・クロニクル~前編~

(……生きているのかな)

 いい気味だ――と思う反面、ラルフの動向が気になってしまう。これも長い付き合いが影響しているのか、妙にラルフの身が心配になる。あのくらいで壊れるようなラルフではないが、いかんせん相手はあのジグレッド。油断したら、あのラルフでさえ壊れてしまうかもしれない。

(まあ、その方が……)

 壊れてしまった方が、逆に静かになっていい。ラルフがいなければ、メルダースは平和な日常を取り戻せる。また、ジグレッドの怒る回数も減り、ストレスが溜まることはなくなるだろう。あのように見えて、相当苦労している。その大きな原因がクリスティとラルフにあることは、大勢が気付いている。

 ジグレッドが外に怒りを放出するのは、珍しいことであった。もし表情に出した瞬間、素直に謝るしかない。それは歯止めが利かなくなり、溜まりに溜まったストレスの爆発ほど怖いものはない。

 そして、火山が噴火する。

 更に流れ出た熱い溶岩は、相手を呑み込む――

 それがいつ訪れるのか予想はできないが、爆発が近いことは間違いない。そしてその対象は、これまたラルフであろう。いや、彼しかいない。何せ、メルダースを破壊する生徒なのだから。

(様子くらいは、見に行こう)

 それは心配半分、好奇心半分であった。へこんだラルフを慰めるくらいは、してやってもいいだろう。少しずつ恩を与えていけば、いつかは倍にして返して……いや、強制的に返してもらう。

 それにいざとなったらあの壊れない身体を盾にして、身を守ることも可能だ。メルダースで平和に暮らしているエイルであっても、何が起こるかわからない。平和なひと時など、一瞬にして崩壊してしまうからだ。そのような時に盾となる人物の存在は、様々な意味で必要となる。

 エイルの場合、それがラルフとなるであろう。だからこそ、嫌々ながらでも付き合っている。

「はあ、辛い」

 これこそエイルの本音であったが、それを受け取る者は説教中。無事に説教を受けているか、それとも気絶をしているか。もし元気であったら、説教に対して耐性が付いたことになる。

 説教の日々。何が面白くて、ジグレッドの小言を聞かなければいけないのか。いまいちそのことを理解することができないエイルは、ラルフの理解し難い生き方を疑問視してしまう。だが、唯一わかることがある。それがおかしな研究で、これを冷静に受け止められるようになったのはつい最近。
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