ロスト・クロニクル~前編~

 知的好奇心という言葉が上げられる、例の研究。認められないこともないが、問題は方向性。それらを纏めて、徐々に改善していかなければならない。そう、全てはメルダースの未来の為に――

(……まさか)

 ふと、エイルは確信する。メルダースは、間違いなくラルフを追い出そうとしている。だがその前に人格矯正を行い、少しでも良い性格へと導き卒業させようとしているのだろう。

 だからこそ、しつこいほど説教を行うのだ。それを考えると、進級試験が合格したのも納得できる。そして卒業試験の合格も、今から決まっているだろう。その考えに至った途端、エイルは呻き声を発する。

(酷いな)

 仕方ないことだと判断した瞬間、大きな溜息が吐かれる。メルダース側も一人の生徒の為に、共倒れはしたくない。それにこれから先、多くの生徒を学びの場を提供しないといけない。

 深く考えれば適切な答えとなるが、そもそもラルフという存在を入学させてしまったことが間違いだろう。しかし入学当時のラルフは今と大きく異なっていたのだから、驚かされる。

(まあ、一年の辛抱か)

 メルダースにいる間の付き合い。そう思えば、意外に気楽に考えることができた。流石に就職先が一緒というのは、間違ってもあり得ない。もし同じ道を進むとなったら、天変地異が起こるだろう。

 エイルは再び溜息をつくと、抱きかかえていた本を新たにかかえ直す。徐々に両手が痺れ出し、感覚がなくなってきた。本を落とす前にメルダースに到着しなければ危ないと判断したエイルは、歩みを速めた。

 その後、ラルフの様子を見に行く。

 それは、好奇心から来るものであろう。だが同時に「可哀想」という感情があったからだ。

 だが、それが腐れ縁のはじまりであった。

 無論エイルは、いい顔はしない。


◇◆◇◆◇◆


 エイルは椅子に腰掛けながら、買っていた本を読んでいた。その目の前にはジグレッドの説教によって、精根尽きたラルフが横たわっている。エイルは、声を掛けようとはしない。ただ黙々と本を読み続け、ラルフの復活を待つ。すると、ピクっとラルフが反応を見せた。
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