ロスト・クロニクル~前編~
反応を見せただけで、それ以上の何かが起こったわけではない。やはり、ただ横になるだけ。その時、奇声が発せられた。かなりの悪夢を体験したのだろう、目を閉じながら苦しそうに呻いていた。
すると両腕で自分身体を抱き締め、悶絶をはじめる。傍から見れば、異様な光景。エイルもそのように感じ取ったのだろう、読んでいた本を閉じると額を思いっ切り叩いて見せる。
「はっ! エイル」
「おはよう。と言うより、こんばんは」
「お、俺は?」
「説教によって、気絶していたよ。だから、僕が部屋まで運んできた。感謝はしてほしいな」
「あ、有難う」
「余計な仕事だったよ。お前の部屋までは、遠いし。しかし、僕以外は誰も運ばないだろうね」
その言葉に、周囲の風景を見回していく。確かに言われた通りにこの部屋はラルフが使用している場所だが、何かが違っていた。見慣れた光景のはずだというのに、何故か落ち着かない。
「あれ? 綺麗だ」
「掃除してやった」
「おお! ありが……ぐえ」
嬉しさのあまりエイルに抱きつこうと飛びつくも、無様に寝台から落ちてしまう。運悪く顎を激突させてしまい、痛みが走る。暫くそのままの体勢で、身体がピクピクと震えていた。
「この部屋には出入りをしているからね。だから汚いのは、気に入らないんだ。だから、掃除をした」
この部屋はラルフの部屋専用の部屋であったが、エイルの部屋といっても過言ではない。頻繁に出入りを繰り返し、私物を置いていないだけあって二人の兼用部屋といっていいだろう。
エイルは汚い部屋は気に入らないので、掃除を行なった。何より、あのままでは病気になってしまう。といってラルフが真面目に掃除をするとは思えないので、エイルはラルフが気絶をしている間に掃除を行った。汚れている服は――洗濯をするのが面倒なので、ゴミと判断する。
汚れた物、不必要な物――そのように判断した物は、全てゴミ専用の袋の中に詰めてしまった。お陰で、ラルフが使用している部屋とは思えないほど綺麗である。だがそれにより、ラルフの私服の大半が失われてしまった。その真実とエイルは、伝えることはなかった。