ロスト・クロニクル~前編~
その反応がつまらなかったのか、ラルフがおかしな行動を見せる。何を思ったのか鉢植えを掌に乗せると、その場で回転をはじめた。それも器用に、爪先で回る。不思議というより奇怪な踊り。それも満面の笑顔で踊られているのだから、吐き気が込み上げてきそうであった。
「何をしている」
「何って、喜びの踊り」
「喜びというより、呪いの踊りだよ」
その表現は、正しいものであった。この踊りを見て、喜ぶ人間などいない。もし喜ぶとしたら、ラルフくらいだろう。いや「喜びの踊り」と表現している自体から、ラルフしか適用されない。
込み上げる吐き気と懸命に戦いつつエイルは枕を鷲掴みにすると、それを思いっきり投げつけた。
ボコ!
運悪く、枕は顔面に激突した。その瞬間ラルフは動きを止め、暫く立ち尽くす。だが次の瞬間、前のめりで倒れはじめた。
エイルに向かって倒れてくるラルフであったが、彼は決して手を差し伸べることはしない。
しかし、鉢植えが壊れてはいけないと、それのみを助け出す。別に、キャシーやマルガリータに愛情があるわけではない。ただ「汚れたら掃除が面倒」という理由で、救出をした。
ドス!
痛そうな音をたて、ラルフが床に横たわった。このような状況になっても、エイルは助けることはしない。
「これで、貸しが増えたね」
口許に笑みを浮かべながら、ラルフを見下す。そして救出した鉢植えを机の上に置くと、寝台の上に丸めて置かれていた毛布を引っ張る。流石日頃掃除をしていないだけあって引っ張った瞬間、埃が舞い上がった。
舞い上がる咳き込みながらも毛布を力任せに引っ張ると、エイルはそれをラルフの上に乗せた。
風邪をひかれたら困る。
それは、優しさが含まれた行為ではなかった。ラルフが風邪をひいたら、多くが迷惑を被る。
一番の被害者といえば、治療をする医師。そして、看護婦だ。このような珍獣の世話など、苦労が耐えない。あのフランソワーの件でも、医師と看護婦はラルフを毛嫌いしているという。何せあのオオトカゲの毒を体内に入れても普通に生き残っているのだから、人間を超越した珍獣なのだから。