ロスト・クロニクル~前編~
イルーズの外見は、昔と変わっていない。相変わらず顔色が悪く、長く濃い青色の髪は乱れている。疲れている様子は一目で判断できたが、紫の瞳には暖かさが混じり弟を見詰めている。
その優しい仕草に、エイルは戸惑いを覚える。四年も会っていないと他人に思えてしまい、それに照れ臭いという感情がないわけでもない。その為、昨日から余所余所しい態度を見せていた。
しかし、兄と弟。ぎこちない態度は、瞬時に良い方向に変わっていく。その証拠に、短いながらも会話が交わされる。それは互いを心配し合い、またこれからどのようにしていくか話し合う。
「早いな」
「……うん。眠れなくて」
「寝床が変わると、眠れないのか?」
「それは、平気だよ。其処まで、デリケートじゃないし。それより、兄さんもこの時間に……」
「仕事をしていた」
エイルはイルーズの仕事内容を知っているので、特に驚いた素振りを見せない。それ以上に、兄の身体のことを心配してしまう。イルーズは、身体が弱い。その関係で、親衛隊の試験を受けることができなかったというのに、徹夜で仕事を行っている。そのことをエイルは愚痴った。
「仕方ない。内容が内容だ」
「そうだけど……」
「今は、自分の心配をした方がいい」
兄の言葉に反応するかのように、エイルの心がチクっと痛み出す。緊張していないといったら、嘘になってしまう。エイルが気の弱い人物であったら、緊張の余り吐き戻していた。それだけ、今回の件は荷が重い。エイルは、イルーズの顔を凝視していた。その優しさが、心に染みる。
「そういえば、変わった」
「何が?」
「身長が、伸びだ」
「そうかな」
「昔は小柄で、身長は小さかった」
「食べていなかったから」
エイルは、生まれ付き小食であった。それは胃が弱いということではなく、何と無く食べたいという感情が湧かなかったのだ。それにより、身長はなかなか伸びないでいた。メルダースに入学前は「幼い子供」という言葉が似合っていたが、今のエイルは別人に等しく、見間違えてしまう。