ロスト・クロニクル~前編~
第四話 白銀の翼
清々しい日差しが、窓から降り注いでいる。エイルはその日差しによって目覚め、大きく息を吐く。そして半分しか目覚めていない思考を動かし、エイルはこれからの出来事を考えていく。
そう、今日は――
王室親衛隊の試験日。
エイルは、これを受ける為に母国に帰郷した。
それは自身が進むべき方向であり、名門と呼ばれているバゼラード家の名前を汚さない為だった。
名前を背負う者の苦痛。
それを理解できる者は少ない。
エイルの兄イルーズは昨夜、複雑な表情を浮かべていた。本当はイルーズ自身が受けなければいけない試験を弟に任せしまったというのが、バゼラード家の長男として許せなかった。
しかし、口に出すことはしない。
していないが、エイルは兄の気持ちを理解していた。それは、中庭で話していた時に確信した。
苦しんでいる。
メルダースに入学した当時から、イルーズと手紙のやり取りをしていた。その時は特に文体にそれらしき感情は含まれていなかったが、帰郷の前に読んだ最後の手紙は明らかに違っていた。
伯爵家の称号を持つ、貴族の一族。
そして、代々親衛隊を排出。
全て、長男の役割。
だが、イルーズは――
ラルフのように楽観的な性格の持ち主であったら深く気にしていないに違いないが、イルーズの性格は繊細で責任感が強い。尚且つ、身体が弱いということを悲観的に考えていた。
別にイルーズは悪くはないが、周囲はそれを許すことはしない。その為、影で口々に言われてしまう。それを気の毒に思ったフレイが、エイルに手紙を送る。「代わりに受けろ」と――
その手紙を読んだ時、エイルは「ああ、そうか……」と、思った。兄の虚弱体質を知っていたので、特に反応を示すことはしなかった。それが関係して入学前から「親衛隊」という職業を気にしていた。いや、父親のフレイに幼い頃から何度か言われ続けてきた。その為、エイルの将来は親衛隊に入隊というのは必然的に決まっているといって過言ではない。