ロスト・クロニクル~前編~
「いや、関係はある」
「何?」
「その意味、貴様も理解しているはず」
男の言葉に、シードの表情が不機嫌なものへと変化していく。それを見た男は、喉を鳴らして笑う。その瞬間、後方で纏めている黒髪が揺れた。そして更に、淡々とした言葉を続ける。
「立場は、我々の方が上だ」
「何を言いたい」
「別に、深い意味はない」
男の言葉は、明らかに何かが隠されていた。それを本能的に感じ取ったシードだが、口を開くことはしない。そう、新しい気配が近付いてくることに気付いたのだ。無論、相手も同じだった。
「……面倒だ」
男は、ポツリと呟く。しかし、シードの耳にその声音は届かない。一拍した後、男は踵を返す。
そして、歩みを進めた。
食えない男の態度に、シードは舌打ちをしていた。
だが、いつまでも引き摺ってはいられない。
シードは、大切な役割を持っているからだ。