ロスト・クロニクル~前編~
勿論、フレイも周囲の反応に気付いている。気付いているが、敢えて平然と振舞う。彼にとって相手は小者なので、いちいち反応を示す理由がない。その為、普通にリデルと会話を繰り返す。
「宜しいのでしょうか」
「何がだ」
「彼等が……」
「好きにさせておけばいい」
フレイの言葉に、リデルは一瞬戸惑う。周囲の反応は、その言葉で片付けられる問題ではない。しかしフレイは、鋭く切り捨ててしまう。それだけ、自分の立場に自信を持っていたからだ。現役を引退して尚、この迫力。敵側がフレイを恐れている理由をリデルは知った。
「シードは、どうした」
「シェラ様のもとです」
「……そうか」
「隊長は、心配しております」
「それは、皆同じだ」
「私もです」
「今、この国は……」
ふと、其処で言葉を止めてしまう。フレイの視界の中に、厄介な相手が飛び込んできたからだ。その人物というのは、ミシェル。誰に対しても強気に出るフレイであったとしても、相手が悪過ぎた。
勝負を挑んだ場合、秒殺できる相手だが地位では完全に負けてしまっている。それに、挑めば国同士のトラブルに発展してしまうので、フレイはリデルを連れミシェルの視界に入らない場所へと移動する。そして、ミシェルが通り過ぎるのを待つ。その後、口を開いた。
「シェラ様のもとへか」
「それしか、ございません」
「全く、物好きだ」
「あの方は、それ以外――」
しかし、それ以上の言葉が続くことはなかった。最後まで述べる途中で、フレイが言葉を制したのだ。
ミシェルの視界から逃れるように人目のつかない場所へ移動したが、何処で人が二人の会話を聞いているかわかったものではない。特に、ミシェルに対しての悪口は言っていいものではない。公子を侮辱した――その理由で、危害が周囲に及んだら溜まったものではない。リデル自身が、危害を食うのならいい。しかし国民に及んだ場合、大量の血が流れる。