ロスト・クロニクル~前編~
「飯を食べたら、着替えないと」
「一緒に行く」
「馬子にも衣装」
「うわ! 酷いな。そう言われないように、立派に演じるぞ。周囲の評価も、変わってほしい」
素早くサンドイッチを食べ終わると、ラルフは拳を突き上げ自分の目標を宣言していく。普段とは違う立派な姿に、エイルは思わず拍手を送る。この演劇では、そのような目標は必要だ。
もし失敗してしまったら、テスト免除は夢と消えてしまう。尚且つ、クリスティの雷が落下する。エイルの何気ない言葉に、ラルフはブルっと身震いする。それだけ、身体にクリスティの恐怖が染み付いていた。
「が、頑張ろう」
「そうだね。よし、着替えに行こう。衣装係が、衣装を用意してくれているから。ふう、大変だ」
エイルは手に付いたカスをパンのカスを叩くと、衣裳部屋として使用している教室へラルフと向かった。
衣装部屋を開けた瞬間、所狭しと並んでいる絢爛豪華な衣装が視界の中に飛び込んでくる。その色とりどりの衣装の数々に、ラルフは圧倒されてしまう。と同時に、胸が高鳴った。
「いい?」
「どうぞ」
「待っていたよ」
「宜しく」
「じゃあ、俺達はラルフで……」
衣装係が言う「じゃあ」という言葉に、ラルフは精神的にへこみそうになってしまう。湿り気たっぷりのオーラを放つラルフの肩をエイルは軽く叩くと「気にするな」と、励ます。
それに周囲の評価を払拭したいというのなら、演劇で見返せばいい。エイルはラルフに元気を与えるように耳元で囁くと、一瞬にして普段の調子を取り戻したのかラルフが復活を果す。彼が元気を取り戻してくれたことにエイルは嬉しそうに笑うと、自分の衣装が用意されている場所へ向かう。
「これ?」
テーブルの上に置かれている衣装を指差すと、衣装係に尋ねる。その質問に衣装係は軽く頷き返すと「着替えるのを手伝う」と言葉を返して来るが、エイルはそれを断った。これくらいの衣装は、自分で着ることができる。それ以前に、付け髪を早く用意してほしかった。