ロスト・クロニクル~前編~

 何事も見た目が重要。

 此方の方が、王子様らしい。

 ただの趣味。

 生徒達が言う独自の感想にエイルは途中から反論するのも面倒になってきたので、渋々付け髪を付けることにしている。それに一日中付けているわけでもないので、我慢もできた。

 次にエイルは手渡されたリボンを受け取ると、両手で付け髪を纏めクルクルとリボンで縛ってく。

「別人だ」

「何だよ」

「いい意味だよ」

「そうだけど……」

「頑張れよ。期待しているから。まあ、お前なら大丈夫か。心臓に毛が生えていそうだからな」

 ちょっとトゲが含まれている言葉だったが、これが彼なりの応援の仕方。それに下手に飾った言葉より、普段言い合っている言葉の方が気楽で良かった。それに、気持ちが籠められている。

 彼の応援にエイルは軽く手を上げ返事を返すと、椅子から腰を上げラルフの様子を見に行った。

「終わったか?」

「終わったよ」

「やっぱり、馬子にも衣装だ」

「俺が衣装を着る度に、言っていないか? そんなに、俺がこういう衣装を着ちゃいけないのか」

「気の所為だよ」

 と言うが、実は何度も言っていた。しかし、本当に「馬子にも衣装」という言葉が似合う。どちらかといえば完全に衣装に着られており、これを見る度にクスクスと笑ってしまう。

「笑うな」

「怒るな怒るな。今怒ると、無駄な体力を使ってしまうぞ。これから、長い時間頑張らないといけないし」

「く、悔しい」

 どのように頑張ったところで、エイルと口喧嘩しても勝つ見込みはない。それに彼が言っているように、喧嘩してしまうと無駄な体力を使ってしまう。今回ラルフはちょい役ではなく、結構出番が多い。演劇は、どちらかといえば体力勝負。言い換えさえないことに悔しさが込み上げてくるが、仕方なく我慢した。
< 489 / 607 >

この作品をシェア

pagetop