ロスト・クロニクル~前編~
第二話 マルガリータ
午前中の授業が終了したことを告げる鐘が、学園中に響き渡った。
生徒達は一斉に席から立ち上がると教室から出て行き、昼食を食べに向かう。
早く食堂に行かないと、席が取られてしまう。
その焦りからか、教室から駆け出す生徒の表情には必死さが見え隠れしていた。
エイルは写し終えたノートを閉じると、凝り固まった筋肉を解す。
先程までの授業は歴史。
内容は「魔法技術の歴史」という睡魔を誘う授業内容であった。
しかしこのような授業であったとしても、居眠りをする生徒はいない。
そこが、普通の学校とメルダースの違い。
授業を一度サボると、次の授業からついていけなくなってしまう。
それは極端な話であったが、この学園では当たり前の話。
エイルは以前一度授業に出られなかった時があり、その後友人のノートを借り必死に勉強を行なったので、その授業には何とか付いていっている。
どのクラスも欠席者は滅多にいない。
出欠席の面に関しては優等生であったが、それ以外は不安要素の方が大きい。
授業時間は全て同じだというのに、どうして学ぶ授業によって時間の流れる速さが違うのか。
それは多くの生徒が持つ疑問であったが、いまだに解明されない。
魔法実習では、短く感じる授業時間。
一方、机に向かっての授業は魔法実習に比べるとかなり長く感じる。
静かな空間というのが影響しているのか、皆よく寝ないで頑張っている。
いや「寝たら終わり」という気持ちが、眠気を飛ばしているのだろう。特に、食事の後の授業は危険だ。
「よっ! エイル」
ふと、同じクラスの生徒が声を掛けてきた。
エイルはそれに軽く返事を返すと立ち上がり、身体の正面を相手に向ける。
「お前、相手決まったか?」
「相手?」
「次の合同授業のことだよ」
「そうだった。と言っても、最初から決まっていると思うよ。今回も泣きついてくると思う」
「確かにそうだな」
「腐れ縁だから仕方ないよ」
合同授業とは、研究者を目指す生徒と一緒に授業を行うことだ。
共に学び合い、良き友人関係を築くというのがこの授業の目的。
と、表向きの考えは聞こえがいいが、魔法系の学生と研究系の学生を共に学ばせ、新たなる発見と広い視野を持ってもらおうというのが本当の理由だ。