ロスト・クロニクル~前編~
この場合「出来ません」と言ってしまえば楽なのだが、これを言うと「不合格にして下さい」と言っているようなもの。流石に、提示された条件を飲み込めないことでの不合格はみっともない。
しかし、条件に合ういい魔法が思い付かない。大体〈地〉の属性は、大地に多大なる影響を与え相手に害を与える魔法だ。特に、魔力で人為的に地割れを起こす魔法がいい例である。
その時、いい方法を思い付く。
どちらにせよ、この属性の魔法は大地に影響を与える。それなら、魔力を抑えて使用すれば問題はない。
だが、これは理論上の話。これを実行するには一回練習が必要なのだが、現在の状況の中で「練習」を行うのは無理。ぶっつけ本番の魔法使用に、エイルは何度も深い深呼吸を繰り返すと「いきます」と、言った。
エイルの気合が入った言葉に、教師は無言で頷く。そして邪魔にならないように、二歩・三歩と後退していく。
呪文も詠唱の仕方は、人それぞれ。浪々と唱える者もいれば、小声で唱える者もいる。エイルの場合は、時と場合によって変化する。以前の決闘の時は浪々と唱えていたが、今回は小声で唱えた。
条件の「極力校庭にダメージを与えず、尚且つ見学者に被害が及ばない」の答えの出し方。
それは、自身の周囲だけに影響が出るように調節を施した。呪文の詠唱の終了と共に、軸足と逆の足で地面を叩く。刹那、エイルを中心に蜘蛛の巣のような形の亀裂が校庭に走った。
「あっ!」
「どうしました?」
「ダメージを与え過ぎました」
「いえ、これくらいなら大丈夫でしょう。これに、見学者に被害が及んだ様子は……ないです」
「そうですか」
教師の言葉に、エイルは胸を撫で下ろしていた。彼の予想では、もう少し校庭への被害を小さくする予定だった。しかし練習なしで魔法を使用したので、これは仕方がないという範囲だ。
「お疲れ様」
極度の緊張が影響してか、疲労困憊のエイルは「はい」と返事を返すと、ゆっくりとした足取りで仲間達のもとへ戻って行く。そんな彼の姿にクラスメイトがエイルの首に腕を回し、エイルの頑張りを褒めていく。それに対しエイルは「疲れた」と言うしかできなかった。