ロスト・クロニクル~前編~
「父さんの前では駄目だ」
「わかっているよ」
「厳しいからな」
「でも、心配している」
「そうだな」
本当に心配しているからこそ、あのように口煩く言うのだとイルーズは説明する。本当の意味で相手を心配していないのなら、口煩く言うことはしない。これも相手に深い愛情を示し、期待している証拠。そして改めて知った父親の愛情に、エイルは心の中で感謝した。
「ああ、そうだ」
「何?」
「メイド達が、お前の帰りを喜んでいる」
「メイド?」
エイルは兄の言葉に困ったような表情を作るが、メイド達が素直に喜んでくれているのは嬉しい。そして第一に“マナ”のことを思い浮かべるが、流石に兄に彼女の名前を言うことはできない。ふと、彼女のことを思い出した瞬間、今何処で何をしているのか興味が湧いてくる。
口を開き徐に言葉を発しようとするが、最初の言葉で声音を封じてしまう。やはり、彼女に対しての質問は気恥ずかしい。それにイルーズはフレイに似て勘がいいので、自分の立場を追い込んでしまう。
それなら、自分で彼女を捜すのが手っ取り早い。それが一番確実な方法で、兄に感付かれなく済む。
その時、イルーズがエイルの肩を叩いた。それは何気ない行動であったが、兄として弟を心配しているという証でもあった。それに、イルーズの表情が先程から実に優しい。そのことを言葉として表さないが、弟が役割を果たして無事にメルダースを卒業できたことを喜んでいるようだ。
「今日は休め」
「……うん」
「あの者に礼を忘れずに」
「アルフレッド?」
「そうだ」
「そうだね」
親衛隊の試験時、アルフレッドの存在は迷惑この上なかったが、遠い土地まで迎えに来てくれる優しさを持ち合わせているのだから、性格面を考慮すればいい人物だ。それにラルフより信頼できるので言葉で感謝を示してもいいが、彼の性格を考えると物で感謝を示した方が喜ばれるだろう。