ロスト・クロニクル~前編~
一体、何がいいか――
といって、すぐに思い付くものではない。何せ、ラルフのように何年も友人関係を築いていないから。
「出会った時に」
「その気持ちを忘れない方がいい。それに、心を許せる友人を一人でも多く増やしておいた方がいい。あの者なら信頼が置けると、父さんが言っていた。決して、裏切ることはないと」
「お墨付き?」
「そういうことだ」
「アルフレッドが聞いたら、喜ぶよ」
フレイが褒めた――と言ったら、アルフレッドは狂喜乱舞するに違いない。刹那、狂喜乱舞するアルフレッドの姿を想像してしまい、精神面にダメージを負いその場で蹲ってしまう。
「どうした?」
血の気が悪い弟の姿にイルーズは長旅の影響と判断したのだろう、立ち話をしてしまったことを詫びる。兄の優しさに、どうして顔色が悪くなったのか正直に言うことができない。今できるのは頷き返し、自分の部屋に行くことだ。そして、流石にアルフレッドの悪口は言えない。
状態が悪いと判断したイルーズはエイルを立ち上がらせると、早く部屋に戻り寝台に横になった方がいいと言う。と同時に、具合が悪いのに呼び止めてしまったことを詫びてきた。
別に、今回の件はイルーズが悪いわけではないが、下手な言い訳と真実を話すのに弊害があったので、具合が悪いということでこの場は押し通す。エイルは兄の言葉に頷き返すと、具合が悪い病人を演じる形で、傍から見れば実に態とらしいふら付く足取りで自室へ向かった。
その途中、女神が用意した偶然なのか、エイルは廊下でマナと出会った。予想外の出来事に互いに目を丸くしてしまうが、エイルはマナに会えたことが嬉しいのか、徐々に口許が緩んでいく。そして人差し指で頬を掻きつつ、照れ笑いをしながら「ただいま」と、言った。
「お帰りなさいませ」
マナはメイドとしての立場があるので、エイルに対して恭しく頭を垂れつつ彼女も丁寧な口調で言葉を返していた。しかし彼女の方もエイルの無事の帰宅を心待ちしていたのだろう、頬が微かに赤く染まっている。それに緊張しているのか、エプロンを握り締めていた。