ロスト・クロニクル~前編~
「そういえば、出迎えの時いなかったね」
「も、申し訳ありません。あの時は、手が離せない仕事がありまして……本当に、すみません」
「そういう理由なら、仕方がないよ。でも、元気で良かった。マナの姿がなかったから、病気かと思った」
「いえ、私は元気です」
メイドは身体が資本の職業なので、体調管理には気を付けているという。それに昔から身体は丈夫らしい。エイルの実家では多くのメイドが働いているが、一時帰宅の時に身の回りの世話や夜食を作ってくれたことが関係し彼女を特別に見てしまう。
そして彼女が行なっていた仕事――それは、エイルの私室の掃除と片付け。やはりこれからも、マナが専属らしい。
「有難う」
「これが仕事です」
「そういう謙虚な所が、マナらしいね。で、仕事は残っている? いや、特別な意味はないんだけど……」
「仕事というわけではないのですが、王都の側の大きい森へ行こうと思っています。其処で採取できる木の実で、焼き菓子を作る約束を仲間の皆様と約束していまして……今から行ってきます」
「僕も一緒にいい?」
「構いませんが、お疲れでは……」
「平気。それに、一緒に行きたいんだ。森へは滅多に行かないし……二人で行ったら楽しいよ」
笑顔でそのように言われたら、流石に断るわけにもいかない。いや、それ以前に主人の息子の頼みなので断れない。それに本音の部分ではエイルと一緒に出掛けることが嬉しいらしく、笑顔で頷き返す。
しかし、エイルは大事なことを忘れていた。マナと一緒に森へ行く前に、このことをイルーズに言わないといけない。何せイルーズは、弟が自室で休んでいると思っているからだ。
「では、勝手口の外でお待ちしています」
「わかった」
彼女と一緒に出掛けられることがエイルにとって相当嬉しいことなのだろう、今まで感じていた疲れが吹き飛ぶ。
その対応の仕方は、明らかにラルフやアルフレッドとは違っていた。これも彼女が全身から発しているほのぼのとした雰囲気がそのようにさせているのか、エイルは心を弾ませながら兄のもとへ急ぐと、これからマナと一緒に出掛けるということを伝える。更に、遠出はしないと付け加えて。