ロスト・クロニクル~前編~
アクセサリーとして貴婦人達が身につけるようになったのは、つい最近のこと。
それ以前の水晶の用途は魔導師がアイテムとして使用し、発掘される物の大半はそれ専用に消費されていた。
結果、アクセサリーとして加工された物は必然的に値が上がり、貴族の間ではそれらを持つことが一種のステータスとなっていると、エイルは聞いたことがあった。
だが、魔法アイテムとして使用しないエイルにとって、それはどうでもいいことであり関係のない話である。
「いくつだっけ?」
「五つだったと思ったが」
「まさかと思うけど、授業の殆どに使用していた可能性が……いや、流石にそれはないよな」
その話に、エイルの表情が変化を見せた。
水晶が使用される主な用途として「魔力の補助」が上げられる。
つまり自分が持つキャパシティー以上の魔法を使用する時に、水晶に宿る力が足りない魔力の補ってくれるという。
だからこれを持っているだけで、実習は合格間違いない。
魔法を学ぶ者の立場から見れば便利なアイテムであったが、いかんせんその値段が高かった。
学生の身分でこれを購入できるというのは、家が裕福かよっぽどの物好きだろう。
例の生徒はそれを大量に購入したというのだから、実家は相当の金持ちというのは間違いない。
羨ましいといえば羨ましいことであるが、逆を返せば「補助がないと満足に魔法も使えない」という情けない一面を曝け出す。
現にその生徒はエイルが言うように、魔力はそれほど高くはない。
「いつか破綻するかもな」
「水晶だって無限に使えるわけじゃないし、学生生活は長いしね。それに卒業試験は、補助は禁止されているから」
「それ、初耳だな」
「僕達のような普通の生徒が、使えるアイテムじゃないしね。だから、殆どの生徒は知らないよ」
「それもそうだ」
その言葉に続き、お互いに笑い出す。
エイルが言うように“水晶”というアイテムは高価すぎ簡単に利用することができないので、一般の生徒は生まれ持ってのキャパシティーで魔法を覚えていく。
どちらが正しい行為かと尋ねた場合、多くの生徒は本来の力で覚える方がいいと判断する。
それは、卒業試験がいい例であった。
今まで補助を用いていきた生徒が、果たして卒業試験を合格できるというのか。
答えは否。
メルダースの試験は、実力によって合否が確定する。