ロスト・クロニクル~前編~

 魔法という力は、それほど簡単に制御できる力ではない。

 だからこそ大勢の生徒がメルダースという場所で学び、日々努力をしている。

 もし数年の修行で魔法を会得し使えるという世の中だったら魔法によっての事件が続出し、危なくて普通に生活を送ることができない。

 所詮そのような出来事は、物語の中の話である。

「ところで、怪我の具合は?」

「あ、ああ……かなり前の怪我だよ。今は包帯も取れたし、痕は残っていない。心配しなくても、平気だよ」

「それは、良かったよ。あいつの為に怪我をするのは、馬鹿らしい。それと同様に、他の力を借りるのは褒められない」

 エイルは袖を捲くると、その箇所を見せる。

 言葉の通り傷は残っておらず、綺麗に治っていた。

 血の量の割には傷が浅くて済んだのが幸いしたのだろう、もし深く傷つけていたら痕が残っていた可能性が高い。

 いやそれ以前に、下手をすれば利き手が使用できなくなっていた。

「普通は、そう思うよ」

「やっぱり、そうだよな」

「ズルはいけない」

「エイルが言うと、説得力があるね」

「そうかな?」

「そういうものだよ」

 互いに微笑を浮かべると、ケインは一気にコーンスープを飲み干す。

 視線をテーブルに移せば、殆どの料理を胃に納めていた後だった。

 どうやらエイルと会話しつつ、器用に食事を続けていたようだ。

 一方のエイルは全くといっていいほど、食事に手をつけていなかった。

「はあ、食った食った。ごちそうさん。栄養補給をしたことだし、魔法の訓練を頑張らないと」

「そういえば、まだ返していなかった」

「まだいいよ。どうせ、あいつに試す為に勉強しているんだろ? それに、あの教科書は使っていないし」

「それなんだけど……失敗した」

「それ、マジか?」

「……油断した」

 小声でそのように答えるエイルに、ケインは腹を抱えて笑い出す。

 “あいつ”と指し示す相手はラルフ。

 そしてエイルの話というのは、面白半分で「回復魔法を使う」ということであった。

 エイルはラルフが実家に帰る数日前にそれを実行したが、結果見事に失敗し、勉強不足を痛感する。


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