ロスト・クロニクル~前編~
「初級魔法だろ? 珍しいな」
「呪文は間違えていないから、制御を失敗したのだと思う。攻撃魔法と、制御方法が違うみたいだ」
「あいつには気の毒と言いたいけど、いいんじゃないか大勢に迷惑をかけているし。日頃の罰だ」
「まあ、そう思っている」
初級魔法であったが、使用したのは回復魔法。失敗の反動は全てラルフに及び、全身の体力を奪い去ってしまった。
失敗したことに「すまない」という感情があったが、相手はラルフなので謝ることはできない。
身体が、拒絶反応を起こす。
そして思考が「ラルフに謝ってはいけない」と、導き出す。
謝ってはいない。
いや、謝る必要はない。
それは皆の感想であり、ラルフに頭を下げたらプライドが傷付く。
「で、その彼は?」
「実家に帰ったよ。お陰で、平和な学園生活が送れている。できたら、このまま帰ってこなくていい」
「だから、静かなんだ」
「そんなに響くんだ、ラルフの声って」
「響くも何も、煩い。大勢の生徒が迷惑をしている」
ケインが言っていることは、痛いほど理解できる。
フランソワーがまだ学園にいた頃、ラルフは大声で「フランソワー」と、叫んでいた。多分、あのイメージが定着してしまったのだろう。
流石に今は植物を育てているので大声で名前を呼ぶことはないと思いたいが、油断はできない。
「実は、帰ってこないことを願っている」
「それ、同感」
「ラルフは、変に天才なんだよ。でも、基礎がなっているから困るんだ。それなのに、進級試験に合格している。また自分が持っている知識を応用して、おかしな薬を作ったりしているし」
「なるほど。普通じゃ、あんな薬を作れないな」
ラルフがあのまま成長を続けた場合「優秀な」という呼ばれるほど、立派になっているだろう。
これで性格面が普通だったら最高なのだか、天はニ物を与えず。
まさにこの言葉が示すように、ラルフは研究の面に関しては天才であった。
だがそれ以外は、期待はできない。
それは、誰もが認めていた。そもそもオオトカゲを飼育していた時点で、一般の感覚からずれている。
今はフランソワーがいないので安心できるが、問題は山百合のマルガリータ。
植物なので動くことはないので周囲に迷惑を掛けるということはないだろうが、何が起こるかわからない。