ロスト・クロニクル~前編~

「何を思ったのか、花を育てはじめた」

「花? 似合わない」

「皆が同じことを言うね」

「本当だから。やっぱり、巨大生物が似合う」

 その言葉にエイルは、ピクっと身体を震わせながら反応を見せた。

 まさか、マルガリータと名付けられた山百合が巨大化――そのことは考えたくはないが、有り得ないことでもない。

 それに山百合が巨大化するとなると、かなり怖いものがある。

 それにおかしな進化を遂げたら、手に負えない。

 もしそうなってしまったら、ラルフに責任を取らせるのが一番とエイルは考える。

「巨大化には、いいイメージはないよ」

「苦労しているな」

「何で、あいつと出会ったんだろ。そもそも、そこが一番の問題だよ。そうだ、出会っていなければ……」

 エイルはオレンジシュースを飲み干すと、ラルフと出会った時のことを思い出す。

 あれは、偶然ではなく必然であった。

 エイルが入学した当初、ラルフはひとつ上の学年であった。

 無論、面識などない。

 廊下ですれ違う程度で、淡々と学園生活を送っていた。

 もしそのような関係を続けていたとしたら、二人は出会うことはなかった。

 しかし、不幸は突如として訪れるもの。

 互いに普通に進級をしていれば良かったのだが、運悪くラルフが留年したのだ。

 それにより、エイルとの有難くもない接点が生まれてしまう。

 それでも、はじめは良かった。エイル自身、ラルフのことを知らなかったからだ。

 ただ「おかしな生徒がいる」という噂を知っていたのみ。まさかそれがラルフだったとは、エイルは運命の非情さを呪ってしまう。

「偶然にしては、できた話だな」

「僕もそう思うよ。影でラルフが演出しているのではいかと、本気で考えたことがあったから。でも演出ができるような人物ではないし、やはり偶然だったのだろうね。嫌だけどさ」

「まあ、そうだな」

「もしそうだったら、張り倒してやる」

「おっ! 過激発言。昔と本当に変わったよな」

 物静かなエイルが今のような性格に変化したのは、ラルフが関係していた。

 エイルがメルダースに入学した理由は「父親との約束を果す為」であった。

 周囲とはあまり関わらず、黙々と勉強をする毎日。

 その為周囲からは堅物として見られ、今とは違い友人も少なかった。


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