ロスト・クロニクル~前編~
周囲に当時のエイルの印象を尋ねると、皆同じことを口にしていくという。
「近寄りがたい雰囲気」それが、エイルの印象だった。
しかし今は性格が明るくなり、誰にでも優しく接する。
ただ、一部を除いて。
「僕って、そんなに暗かったかな?」
「俺が出会った時は、今のように明るかったな。昔のエイルは、暗く目立たない生徒だったらしい」
「物事に、集中していたんだよ。メルダースの授業は、難しいから。留年だってしたくないし」
「で、その留年で運命を変えた奴がいる」
それを示す人物こそ、ラルフであった。
留年により同学年となったラルフは、エイルに興味を抱き近付いてきた。
それがどのような理由であったのか、いまだに話してはくれない。
どうせくだらない理由だと思い、エイルは詳しくは聞きたいとは思っていない。
ただラルフが勝手に喋ってくれるのなら別問題。
だが、お喋りに見えて口が固いラルフ。
いつ話してくれるかは、正直わからない。
はじめてラルフと出会った時の印象は、最悪であった。
「不思議な奴」と思ってしまうほど、メルダースの生徒に相応しい人物には見えなかった。
だらしない――それが、ラルフに対しての第一印象。
そして、学園一問題児。
付き合うに相応しい人物とは、到底思えないかった
物静かなエイルに、ラルフは積極的に話しかけてきた。
多分「友人になれる」と感じたのだろう、結果として今は悪友関係と呼ばれるようになっている。
今も昔も、ラルフの野生の勘は鋭い。
「付き合ってどうだ?」
「迷惑」
「おお、厳しい言葉」
「今は、それしか言えない」
無理矢理というべきか、それとも強制的と表現した方がいいのか。
ラルフはエイルを勝手に友人と決めつけ、行く先々についてきた。
勿論専攻が違うので常に一緒というわけにはいかないが、時間を見つけては会いに来た。
そのことに対してエイルは、全身で「来るな」というのを表していたが、ラルフは全く気付いていない。
逆に「どうしていけない」と聞き、エイルの神経を逆撫でしたこともしばしば。
当時からエイルの魔力の高さは、知られていた。
その為、いつからは魔法でぶっ飛ばされるのではないかと、生徒達の関心を集めていたという。
流石に当時はそれを行おうとも思っていないが、今は違う。
涼しげな顔でラルフを実験対象にし、その効果を確かめている。