ロスト・クロニクル~前編~
変わりすぎだ。
そう言われるようになったのは、メルダースに入学して三年の年月が流れた頃。
どうやら問題児と呼ばれるラルフと一緒にいて、エイルの性格が激変したらしい。
その劇的な変化に周囲は驚いたが、逆にラルフを抑え付けられるまでに成長したエイルに周囲は喜んだという。
「崇められているよな」
「大袈裟だよ」
「あいつが何かした場合、止められるのは今のところエイルだけ。だから、周囲は期待してしまう」
「ジグレッド教頭もそうだと思う。夏休み前に、長々と説教を受けていたから。あれは、自業自得」
説教から逃れようとしていたラルフであったが、珍しく自ら進んで説教を受けたという。
だが、これには裏が存在した。
説教を受けなければ、夏休みを没収という過酷な罰が待っていたからだ。
一ヶ月の休みを奪われたくない。
だからこそラルフは、泣く泣くジグレッドの前に立った。
そして、何とか休みを獲得する。
「そういえば、単位は大丈夫だったんだ」
「毎日のように放課後、追試をやっていたらしい」
実家に帰ると旅立った時のラルフは、少し痩せていた。
それは、連日の追試による疲労によるものだろう。
全てを終え開放されたその姿は、どこか晴れ晴れとしていたのを思い出す。
「結果として、清々しい夏休みを迎えられたわけだ。あいつが頑張るなんて、珍しいことだ」
「ラルフにとって夏休みは、命の次に大切なようだよ。さて、僕も行かないと。やらないといけないことがあるし」
「それなら俺も、魔法の練習に行くか。制御を失敗して、痕を残すと面倒だし。結構、嫌なものだぞ」
「回復魔法は、大変だよな」
そのことは、一から学び知った。
今までは漠然と「難しく覚えるのが大変な魔法」として認識がなかったが、ラルフに回復魔法を使った時その難しさを改めて認識することとなる。
「でも、楽しいぞ。学んでいると」
「それは回復魔法に限らず、攻撃魔法でも同じことを言えると思う。現に、魔法を学ぶことは楽しいから。だから次は、必ず成功をさせたいと思っている。絶対に、初級の回復魔法を習得する。教えてもらえば早いけど、やっぱり自力で覚えたいし……勿論、ラルフを使って」