巡り合いの中で
プロローグ
無数の雷鳴が轟き、大粒の雨が容赦なく降り注ぐ大地を一人の少女が歩き続けている。
先程まで懸命に走り続けていたのか肩で呼吸を繰り返し、服は全体的に土で汚れていた。
また、走っている途中で靴が脱げてしまったのか、少女は裸足で所々か痛々しく擦り切れている。
少女は位が高い者に仕える身分なのか、彼女の服は侍女専用の物。
一見、主人の機嫌を損ね追い出されたかのように見えなくもないが、少女が小声で何度も発する「一体、何処にいかれたのですか」という言葉から察するところ、決して主人に見捨てられたわけではない。
疲れ切った身体を休め体力の回復を図ろうと、太く逞しい枝を四方八方に伸ばした巨木の下で雨宿りする。
巨木の下に逃げ込むと同時に、大量の水分を吸い込んでいる侍女服の裾を絞る。
そして冷たい草の上に腰を下ろすと、天を仰ぎ一向に回復の気配を見せない空を眺める。
(一体、どうして……)
何故、こうなってしまったのか。
何故、姿を消したのか。
少女は激しく鼓動する心音を聞きながら、過去を思い出す。
あれは、事件というべき事柄なのか。
いや、今考えればあれは事件そのものといっていい。
少女が仕えていた人物はこの国の王女で、王位継承権を持つ立派な人物。
その姫君が突如神隠しにあったかのように消え去り、側近達は一斉に慌て混乱し収拾が付かない状況に陥る。
犯人の意図は?
それについて、多くの憶測が生まれた。
侍女仲間が耳にしたのは「姫君を誘拐し、それを盾に相手が何か法外な要求をしてくるのでは」や「この国に戦争を仕掛けようとしている」など、実しやかに語られ恐怖に陥らせる。
また、気が弱い者は噂を本気と受け取ってしまい、か細い悲鳴を上げ気絶をしてしまう。
特に侍女を束ねる女官長は心中穏やかではなく、周囲の目もあって冷静に振る舞っているが、人目が付かない場所で信仰している神に姫君の無事を祈っていることを少女は知っている。
(誰が、このようなおぞましいことをしたのかしら。できるものなら、無事にお返し下さい)
今回の誘拐は少女にとって、衝撃的であった。
それは一国の姫君だからというものではなく、仕えている姫君は憧れと敬愛の対象であったので、目の前から失われることに恐怖する。
それに姫君が側にいるのが当たり前のようになっており、心の中に生まれたのは虚無感。
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