巡り合いの中で

『わかりました。何かがあった場合、こちらで対処いたします。その方が、スムーズに事が運びます』

「助かる」

『いえ、いつものことですから』

「いつも?」

『こちらに、連絡が来ることが多い……ということです。ではお邪魔になってはいけませんので、これで――』

「ああ」

 その言葉で、互いの電話が切れる。

 これでライアスへの連絡が終わったので、表門に向かうことにする。

 すると到着と同時に目についたのは、一台の車。

 白い塗装が施されたこの車はセネリオにとっては見慣れた車種で、いつも父親が外出する時に使用している愛車の一台。

 勿論、他にも複数所持している。

「いいのか?」

 後部座席の窓が開かれ、アゼルの声音が響く。

「相手が相手だからね」

「そうか」

 アゼルの言葉と共に、ドアが開かれる。

 セネリオは後部座席――

 父親の隣に腰掛けると、何か重いモノを体外へ吐き出すかのように溜息を付く。

「どうした?」

「ちょっと……ね」

「何かあったのか?」

「猫が……」

「猫?」

「猫を飼いはじめた侍女がいてね」

「……あのことか」

 アリエルの件はアゼルへ報告が行っているので、無論知っている。

 しかしそれ以上に、息子が「猫」について気に掛けていることに、アゼルは表情を綻ばす。

 時折耳にする、セネリオとアリエルの関係。

 一時期、アリエルにスパイ疑惑が掛けられていたが、今は「スパイ」の単語を耳にはしない。

 異性に全くといっていいほど興味がなかった息子が、アリエルの登場によって徐々に変わりつつあることを誰よりも感じている。

 折角食事に誘ったのだから、そのあたりを重点的に聞き出そうと、アゼルはフッと笑みを漏らす。

 すると何か不穏な気配を感じ取ったのか、セネリオは身構えてしまう。

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