巡り合いの中で

 少女の様子は?

 医務室を訪ねたセネリオは、そのように問う。

 突然のセネリオの登場に医師と看護師は〈後継者(クレイド)〉の名前が示している通り、全員が恭しい態度を取る。

 彼等の態度にライアスは視線だけを動かしセネリオの表情を確認すると、いつもの無表情で彼等の言動を受け取っていた。

「血は、止まりました」

「そうか」

「ただ……」

「ただ?」

「これを見て頂きたいです」

 画面に表示されているのは、少女の身体データ。

 少女の主だった傷は足首の深手だが、それ以外にも打撲や裂傷など多くの傷が目立つ。

 傷の治療と共に身体の内部も検査をしたのか、それについてのデータも表示されるが、引っ掛かる部分を発見したのかセネリオの表情が曇る。

「これは……」

「クレイドも、お気付きで」

「低いな」

「この者はどのような場所で暮らしていたのか存じませんが、明らかにこれらの数値が低すぎます」

「栄養不足か」

「それに近いです」

 医師からの言葉に、セネリオは即答を避ける。

 頭の中に浮かんでは消えていくのは、多くの憶測。

 イシュバールに侵入を試みるのだから、相手はそれなりに高い技術力を有しているだろう。

 それに比例して文明や文化も発展しているはずなので、その世界で栄養不足は考え難い。

 しかし表示されているデータは、明らかに栄養不足を示している。

 特に骨密度が低く、治療一歩手前の数値といっていい。

 少女が目的を持って意図的に食事を取らなかったのか、それとも取ることができない状況にあったのか。

 特に後者の場合、人的問題に発展してしまう。

 一体、何処にいたのか。

 はたまた、少女は道具か。

 そして、此方に注目させ他の者が侵入したのか。

 複数の情報を総合し、ひとつの可能性を導き出したセネリオは後方で待機しているライアスに視線を向け此方に来るように促すと、周囲に声音が届かないように彼の耳元で囁く。

 「それは、憶測に過ぎない」と事前に伝えるが、話が進むにつれライアスの表情が変化する。
< 13 / 161 >

この作品をシェア

pagetop