巡り合いの中で

 セネリオの声音から侍女達は気付かれてはいけないと、上手く誤魔化していく。

 しかし今日は珍しく、セネリオが食い付いてくる。

 焦った侍女達はあれこれと言葉を発し、本質に近付けないようにするが、先程以上に声音の音量が上がってしまい、セネリオの表情を歪ます。

「騒がしい」

『も、申し訳ありません』

「で、何があった?」

『何もありません』

『アリエルを宜しくお願いします』

『すぐに行かせますので』

『通信、切ります』

 セネリオの耳に響いたのは、通信が遮断される音。

 雇われる立場の侍女から通信を一方的に切るのは失礼に当たるが、今の状況を考えるとこれは仕方がないことであった。

 多くの者――というか殆どの者が、セネリオとアリエルの未来に期待しているので、黙認される。

 通信が切られたことに、セネリオは不満そうな表情を浮かべるが、アリエルと何処かへ行けるので腹立たしいまではいかなかった。

 セネリオはフッと笑い表情を緩めると、ドアのもとへ向かうが途中で脚が止まる。

(そうだ)

 アリエルを呼びだす時にいちいち休憩室に通信を繋げていたが、これでは他の者達に聞かれてしまう。

 それなら、彼女専用のスマートフォンを買い与えるのもいい。

 通話以外にもメールが行え、何処かへ出掛ける時も便利でいい。

 だがその反面、高価な物と買い与えると彼女が嫌がってしまう。

 考えてもいい結論がでないので、彼女に直接聞けばいいとドアを開きアリエルのもとへ向かった。




 案の定、アリエルは首を縦に振らない。

「そんな高価な物を――」

 それが、アリエルの言葉だった。

「便利だよ」

「そうですが……」

 やはり躊躇いの方が大きいらしく、首を縦に振る気配がない。

 ミーヤの件で猫ちぐらを貰い、その前に服も買って貰っている。

 その状況で更に高価なスマートフォンとなると、返し切れないほどの恩となってしまう。

 それ相応の給料を貰っているとはいえ、過度の負担となる。

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