巡り合いの中で
しかし、セネリオは言う。
皆、持っている。
と――
「あった方が、宜しいですか?」
「私との連絡の他に、侍女同士の交流にも使える。これで他愛ない話とか、調べものとかに使っている」
「そ、それでしたら……」
「買う?」
「自分の給料で買います。その……一括支払いは難しいですので、少しずつの支払いで……」
「アリエルがそれでいいなら」
アリエルがスマートフォンを持ってくれることが余程嬉しいらしく、セネリオの表情が綻ぶ。
今すぐに買いに行きたい心情にかられるが、今日は別の場所に誘う予定なので諦める。
「で、アリエル」
「何でしょうか」
「空に上がろう」
「空……ですか」
セネリオの言葉に首を傾げつつ、アリエルは無意識に天井を眺め見る。
彼女にとっての「空」は頭上に広がっている空間を示していて、更に上に何が存在しているかわかっていない。
空を飛ぶ乗り物があることは覚えたので、それに乗って何処かへ行くものだと勘違いする。
「違う」
「ですが、空となりますと……」
「更に上」
「上って申されましても……」
「見れば、わかるよ。折角イシュバールに来たのだから、体験できないことを体験するといい」
一体何処へ連れていかれるかわからないアリエルであったが、徐々にこの世界での生活に慣れてきたとはいえ、まだまだ知らないことが多い。
そのひとつがセネリオが言う「空」であって、どのような場所なのか興味が湧きだしたのか、その場所へ連れて行ってほしいとお願いする。
勿論セネリオもそのつもりで誘ったので快く了承すると、二人は仲良く肩を並べながら廊下を歩いていく。
その姿を遠巻きから眺めていたのは、侍女達。
アリエルを心配――というより上手くやっているのか気になったらしく、彼女達は廊下の角から覗き見をしていた。