巡り合いの中で

 しかし、セネリオは言う。

 皆、持っている。

 と――

「あった方が、宜しいですか?」

「私との連絡の他に、侍女同士の交流にも使える。これで他愛ない話とか、調べものとかに使っている」

「そ、それでしたら……」

「買う?」

「自分の給料で買います。その……一括支払いは難しいですので、少しずつの支払いで……」

「アリエルがそれでいいなら」

 アリエルがスマートフォンを持ってくれることが余程嬉しいらしく、セネリオの表情が綻ぶ。

 今すぐに買いに行きたい心情にかられるが、今日は別の場所に誘う予定なので諦める。

「で、アリエル」

「何でしょうか」

「空に上がろう」

「空……ですか」

 セネリオの言葉に首を傾げつつ、アリエルは無意識に天井を眺め見る。

 彼女にとっての「空」は頭上に広がっている空間を示していて、更に上に何が存在しているかわかっていない。

 空を飛ぶ乗り物があることは覚えたので、それに乗って何処かへ行くものだと勘違いする。

「違う」

「ですが、空となりますと……」

「更に上」

「上って申されましても……」

「見れば、わかるよ。折角イシュバールに来たのだから、体験できないことを体験するといい」

 一体何処へ連れていかれるかわからないアリエルであったが、徐々にこの世界での生活に慣れてきたとはいえ、まだまだ知らないことが多い。

 そのひとつがセネリオが言う「空」であって、どのような場所なのか興味が湧きだしたのか、その場所へ連れて行ってほしいとお願いする。

 勿論セネリオもそのつもりで誘ったので快く了承すると、二人は仲良く肩を並べながら廊下を歩いていく。

 その姿を遠巻きから眺めていたのは、侍女達。

 アリエルを心配――というより上手くやっているのか気になったらしく、彼女達は廊下の角から覗き見をしていた。

< 131 / 161 >

この作品をシェア

pagetop