巡り合いの中で

「どうしました?」

「こんなに、高い建物が……」

「珍しいですか?」

「私が、暮らしていた所には……」

「そうでしたか」

 しかし、セリナはそれ以上の言葉を続けようとはしなかった。

 好奇心たっぷりの瞳で建ち並ぶ建物を眺めているアリエルは、同じ文明社会の中で生きている人物とは思えない。

 また、彼女が発した「暮らしていた場所には」という言葉からして、それ以下の文明社会で生きていた証明となる。

 スパイか、それとも――

 多くの者はアリエルとスパイではないかと言っているが、彼女の反応にセリナもセネリオ同様にスパイではないのではないかと予想する。

 だが、セネリオが明確な回答を出していないので、セリナは特に言及することはしない。

 ただアリエルに、侍女の仕事に付いて教えるのみ。

「仲間のもとへ参りましょう」

「侍女……ですか?」

「そうです。クレイドから案内するように申し付けられましたが、貴女の言動を見ていますと時間が掛かってしまいます。ですので先に仲間のもとへ行き、貴女を紹介することにします」

「……すみません」

「貴女は、好奇心が旺盛なようで」

「そ、そんなことは……」

「旺盛なことは構いません。ただ、置かれている立場も理解しないといけません。わかっていますね」

「は、はい」

「それなら、宜しいです」

 セリナの言葉によって思い出されるのが、セネリオの発言。

 「監視はする」と、明確に言っていた。

 どのように説明しても信じられない状況にあるが、それでも監禁されることなく侍女として働かしてくれる。

 「優しい方」と、アリエルは微かな声音でセネリオに対しての感想を呟く。

「何か?」

「い、いえ」

 セリナの耳に届いてしまったことにアリエルは慌て、反射的に首を左右に振る。

 その仕草にセリナはクスっと笑うと、アリエルを別の場所で仕事を行っている仲間のもとへ連れて行く。

 スパイ疑惑が掛かっている少女の登場に大半――というか全員がいい表情をせず、彼女を凝視する。
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