巡り合いの中で

(本当に、大丈夫なのか)

 言葉で了承していても、態度が伴わないのが息子の特徴とアゼルは知っているので、不安感の方が強い。

 今回も何かが起こるのではないか――と考えつつ再び肩を竦めて見せると、香りのいいコーヒーを喉に流しつつ息子の将来を愁え、早くいい相手が見付かるようにと願う。


◇◆◇◆◇◆


 見合い。

 ハッキリ言ってセネリオは乗り気ではないが、父親の顔に泥を塗るわけにはいかないので、仕方なく参加しているといっていい。

 セネリオは無表情で椅子に腰掛け、見合い相手と対峙する。

 明らかに両者が発している雰囲気は異なり、この時点で明確な立場の差を証明していた。

 彼の前にいる人物は、事前説明で示されたように確かに美人といっていい。

 長く伸ばされた小麦色の髪は毎日時間を掛けて手入れを行っているのだろう、艶やかで光り輝いている。

 また化粧にも時間を掛けて行ったのか、気合を入れてお見合いに挑んでいることはわかる。

 27という年齢柄大人の雰囲気が漂うが、それだけでセネリオが惹かれるわけがない。

 何人もの女性と見合いをしているので、セネリオは瞬時に内面を見抜いてしまう。

 そのひとつが、気に入られようとしている必死感。

 常に笑顔を絶やさず、品のいい態度を崩すことはない。

 これもまた事前に行ったシミュレーションの賜物なのか、セネリオからの質問に対し相手は当たり障りのない回答を返してくる。

 しかしその当たり障りのない回答は、セネリオの気分を徐々に害していく。

 どれを取っても肯定的な意見で、否定的な意見はひとつもない。

 見合いの定番の質問「趣味」に付いて尋ねると、セネリオが趣味としているモノを頑張って好きになるように努力します。

 また、同じ趣味を楽しむことができればいい――と、破顔を作りながら言ってくる。

 だが、本当に一緒にウィルス作成を楽しむのかどうか怪しい。

(ああ、彼女も……)

 見合い相手は、皆同じ。

 それが、セネリオが出した答え。

 誰も「セネリオ」という人物を見ているわけではなく「イシュバールの跡取り息子」としか見ていない。

 だからこそ否定的な意見を言わず、全て肯定的な意見で返してくる。

 これによってセネリオのご機嫌が取れるのだと思っているのだろうが、逆に神経を逆撫でする。
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