巡り合いの中で
アゼルは息子が立ち去った方向を一瞥すると、どのように言葉を掛ければいいか悩む。
イシュバールの民を纏め、多くの惑星の統治者と対等――
いや、それ以上の立場を取ることができるアゼルだが、流石にこのような状況は慣れていないのだろう、何度も嘆息が漏れる。
この瞬間、見合いは終了した。
◇◆◇◆◇◆
見合いの場から逃げ出してきたセネリオの気分は、最悪といっていい。
一方的に見合いを申し込んでくることに嫌悪感を抱くことはないが、いかんせん目の前に座る女性の性格が引っ掛かる。
会う者誰もが同じ言葉言い、同じ態度を見せる。
いい加減、うんざりする――が、彼の本音。
どうして、本心を出さない。
どうして、偽りの言葉を言う。
この二点が、セネリオの心を冷たくする。
(気分転換に……)
苛立ちが続く状況で仕事を行っても、失敗は目に見えている。
また、誰かに当たり散らしたら申し訳ないので、気分を落ち着かせようと廊下を当てもなく彷徨う。
ふと、彼の視界に美しい緑が映り込む。
その緑の正体は憩いのスペースとして設けられている中庭で、噴水も設置されている。
緑を見ていれば、害された気分が癒されるだろう。
と考えたセネリオは中庭に立ち入ると、周囲を見回しベンチを探す。
その時、中庭に先客がいることに気付く。
侍女服を着ているその者はアリエルで、セネリオは彼女の側に近寄るとこの場所で何をやっているのか尋ねる。
「休憩を――」
「そうか」
「ク、クレイドは……」
「見合いから、逃げて来た」
「宜しいのですか?」
「元々、この見合いは乗り気じゃない。盛り上がっているのは相手側で、一方的だから……」
「で、ですが……」
それを聞いたアリエルは、セネリオが置かれている立場を思い出す。
それに以前仕えていた姫君も、いずれ誰かと結婚しないといけない。
それが次期継承者の役割だと考えているアリエルにとって「乗り気じゃない」という理由で見合いから逃げ出したことが、信じられなかった。