巡り合いの中で

(姫様は……)

 ふと、アリエルは主人の顔を思い出す。

 レナ姫は、幼少の頃から自分が次期女王であることを自覚していた。

 自覚していたからこそ、王女に相応しい教養と品格を身に着けようと努力していた。

 それらには大変な苦労が付き纏うが、レナ姫は一度も「辛い」と口に出さず、自分に課せられている使命を受け入れる。

 それが、正しい姿なのでは――

 そう、アリエルは認識していた。

 しかし、周囲から〈後継者(クレイド)〉と呼ばれているセネリオは、その自覚さえ乏しい。

 あまつさえ「乗り気ではない」という理由で、見合いを途中退席する始末。

 敬愛している主人と真逆の存在であるセネリオに、アリエルは思わず辛辣な言葉を言い放つ。

「アリエル!?」

「もっと、自覚なさらないといけません」

「い、一応」

「あるのでしたら、逃げてはいけません」

「いや、今回は……」

「立場をお考え下さい」

 大人しい人物と認識していたアリエルからの予想外の言葉の数々に、セネリオは唖然とする。

 まさかこのようなことを言われるとは想像もできず、言葉に詰まってしまう。

 セネリオの気まずい表情から何を言ったのか理解できたのだろう、アリエルの顔から血の気が引いていく。

「も、申し訳ありません」

「アリエルって、言う時はシッカリと言うんだ。それも、厳しい言葉を。何というか……意外だ」

「い、今は……」

「心が痛い」

「ご気分を害し……」

「いや、いいさ」

 勿論、アリエルの発言には驚いた。

 だからといってセネリオは、腹立たしいとは思わなかった。

 今のところセネリオにあれこれと意見できるのは、父親の他にライアスしかいない。

 そのような中で臆せず面と向かって意見を言えるアリエルは貴重な存在で、面白い人物と認識する。

 異性の言動に辟易していたセネリオにとって、アリエルが発する一語一語が余程新鮮だったのだろう急に笑いだす。

 一方、セネリオの変化の理由がわからないアリエルはオドオドとしだし、無礼な行動を取ってしまったことは侍女仲間には内緒にして欲しいとお願いする。
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