巡り合いの中で
第一章 神の世界
血生臭い。
それが、第一の感想。
若者が部屋に立ち入ると、複数の白衣を纏った者が右往左往している姿が視界に映り込む。
しかしドアの開閉音と若者の登場に、全員が一斉に視線を向け恭しい態度を取る。
その中で先程若者と通信を行っていた四十代前半の男が近寄り、簡略的に状況を説明していく。
「少女は?」
「怪我をしていましたので、今治療を――」
「それで、血の臭いが」
「ご不快ですか?」
「いや、平気だ。それより、傷の具合は?」
「見た目の判断ですが、打撲と裂傷――特に右足首の傷が酷く、流れ出ている血はその箇所からと……詳しい状況は、検査後に」
「……なるほど」
少女が何者か判明していないが、傷を負っているのならそれ相応の治療をしてやらないといけない。
これに関しては、適切な判断をした――と評価を下すと、一部の者が安堵の表情を浮かべる。
どうやら無断で判断を下したことが気に掛かっていのだろう、若者は苦笑する。
「人命は、優先しないといけない」
「しかし、クレイド」
「何?」
「この者は、一体」
「家出か、スパイか……」
「それは?」
「噂。皆が、そう話している」
クレイドと呼ばれた若者は「面白い噂を作り出す」と言い噂を本当と信じてはいけないと付け加えるが、少女の正体が噂の「スパイ」だったら、彼等にとって洒落にならない存在といっていい。
いや、それ以上に破壊工作員であったとしたら――と、別の憶測が誕生する。
「で、出現位置は?」
「転移装置の中です」
転移装置はその名の通りあらゆる物体を別の場所に移動させる機械で、少女が出現したのは主に人物を転移させるのに用いられている機械。
何かの手違いや設定ミスによって別の場所から来てしまったと考えられなくもないが、といってどうして怪我をしているのか――