巡り合いの中で

「勿論です」

「どう見ている?」

「噂は、半々かと……」

「そうでないと、困る」

「確かセキュリティーの中枢は、クレイドが……」

「今は、二人しかいない。だから、できれば名前で呼んでほしい。どうも、ライアスにそう呼ばれると……」

 その言葉に大事なことを思いだし、ライアスは素直に詫びる。

 二人の間だけに交わした約束というのは、周囲に誰もいない時は名前で呼んでほしいというもの。周囲は常に〈クレイド〉と呼んでいるが、これは若者の敬称。

 古い言葉で〈後継者〉という意味を持っている。

 本当の名前はセネリオ・オルトレスであるが、彼を名前で呼ぶ者は限られている。

 科学者を含め多くの者は〈後継者(クレイド)〉と呼び、敬語を用いている。

 それについてセネリオは特に不満を口に出すことはしないが、自分の名前が呼ばれず敬称で呼ばれることに寂しさを覚える。

 セネリオとライアスは主従関係にあるのだが、セネリオはライアスをそのように見ていない。

 それを証明するのが、ライアスが〈クレイド〉と呼ばず、名前で呼んでいること。

 これはセネリオ側からの願いで、いい友人として長く付き合っていきたいという心情の表れ。

 しかし主従関係を壊していいものではないので、ライアスは敬語を持ち入り名前呼びの時も敬称を付ける。

 それについて多少の不満がないわけでもないが、立ち入ってはいけない崩してはいけない関係があることを理解しているので、ライアスの言動を咎めることはしない。

「セキュリティーの中枢は、勿論携わっている。それを簡単に破って、侵入するとは……面白い」

「セ、セネリオ様」

「少女自身がやらなかったとしても、その裏に誰かがいる。その者が、セキュリティーを……」

「お止め下さい」

「何も言っていない」

「セネリオ様のお考えなど……」

「大丈夫だ」

 そのように言っているが、ライアスはセネリオの性格を知っているので事前に注意を促す。確かに彼は、高い知識と知能を有している。

 その部分は尊敬しているが、後に待っているセネリオの趣味が引っ掛かってしまう。

 だからこのように、友として厳しい言葉を返す。

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