巡り合いの中で

 これ以上は――

 と言い、途中で店員達の行動を止める。

 テーブルの上に並べられている代物は多く、大食いの者でなければ全て食べきれない量となっていた。

 セネリオの注意に機嫌を害してしまったと勘違いしたらしく、オドオドと店長が進み出ると、別の物を用意した方がいいか尋ねる。

「いや、そうじゃない」

「で、でしたら……」

「紅茶だけでいい」

 その言葉で、セネリオが何故行動を止めたのか知る。

 それを受け店長はテーブルに並べられている菓子を下げていく。

 しかし全てを下げるわけにはいかないと判断したのだろう、ショートケーキだけが残された。

 セネリオはショートケーキが乗った皿を手に取ると、一口食べてみる。

 その一連の動作が気になってしかたないのだろう、店長を含め数名の店員が凝視してくる。

「何?」

「い、いえ」

「彼女は、どうしている?」

「今、選んで頂いています」

「どういう服?」

「そ、それは……」

「値段は、気にしなくていい。欲しい服全て、私が支払う。彼女には日頃、世話になっているから」

「わ、わかりました」

 「値段を気にしなくていい」という部分に、店長が過敏に反応を示す。

 当初、二人がどのような関係なのか気に掛かっていたが「世話になって」と聞き、それ以上気に掛けることはなかった。

 それどころかセネリオの世話になっている人物なのだから、いい服を選ばないと――と、考える。

 セネリオの話を聞いた後、店長は店員を店の隅に集めると、二人がどういう関係なのか説明していく。

 その話に店員達は驚くも、考えたことは店長と同じ。

 いそいそと服を選ぶアリエルのもとへ向かうと、あれこれと手を貸し、彼女に似合う流行の服を用意し試着を進める。

(賑やかだ)

 店長と店員が立ち去った方向を眺めつつ、セネリオはショートケーキを口に運ぶ。

 最初は彼等に任せておこうと考えていたが、どのような服を試着しているのか気になったのだろう、ショートケーキを全て食べ終えると椅子から腰を上げ、アリエルの様子を見に向かった。

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