不機嫌でかつスイートなカラダ ベリーズ文庫版
卓巳君はいつものように優しく微笑むと……。


「ごめんね……」


そう言って私の手を離して彼女のもとへ行ってしまった。


行かないで。

そう叫んでいるつもりなのに、まるで声を失ったみたいに私の口からはなにも言葉が出てこない。

ひとりにしないで……。

彼の後を追いかけようとすると、誰かの囁き声が聞こえてきた。

“バカな女だな。お前は最初からひとりだったんだよ”と。

その途端、足元の地面にぽっかりと穴が開いて、私の体はそこから急降下した。

落ちた場所には、まっ黒な水が張られていた。

プール?
ううん、もっと広くてもっと深くて……。

先がどこまであるのかもわからないほど大きな海のようなところ。


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