不機嫌でかつスイートなカラダ ベリーズ文庫版
言われるままに口を開ける。

卓巳君は箱から1粒取り出して、私の口に放りこんだ。


「懐かしぃ……」


舌でその甘みを味わっていると、古い記憶がよみがえってきた。

昔、お母さんと一緒に買い物に行くと、よくこれを買ってくれた。

まだ敦が産まれてなくて、私が五歳ぐらいの頃だったかな。

買ってすぐに食べたがると、「だーめ。家まで我慢しなさい」っ叱られたっけ。

帰り道は、いつもふたりで手をつないで歩いてたな。

ときには一緒に歌なんか歌ったりして。


当時のことを思い出して、自然と顔がほころんじゃう。

だけど、そんな私の様子を、卓巳君は別な意味に受け取ったようだ。


「すんげぇ、幸せそうな顔すんなぁ。女の子って、甘いもん好きだね」


そう言って、満足げに笑っている。そして……。


「オレにもちょーだい」


突然自分の顔に影が降りてきたかと思ったら、あっという間に唇を奪われた。


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