不機嫌でかつスイートなカラダ ベリーズ文庫版
気づけば、ここを訪れてから一時間近く経っていた。
いけない。
これじゃ研究の邪魔になっちゃうよ。
「私、そろそろ帰るね」
「ごめんな。送ってあげられなくて……」
卓巳君が私の首にマフラーをぐるぐると巻いてくれた。
「ううん。いいの。研究がんばってね。それと、マフラー借りちゃっていいの?」
マフラーをギュッと握りしめて顔を沈める。
ほんのりと彼の香りがして、あったかい。
「ああ。ホントは手袋も貸してやりたいんだけど、どっかに落としちゃって、今持ってないんだ」
「新しいの買わないの?」
「卒研終わるまで買いに行く暇ねぇし。しばらくがまんするよ」
「そか……」
「それより、気ぃつけて帰れよ。あと、ごちそーさま」
卓巳君はにっこり微笑むと、ポンポンと私の頭を撫でた。
「あ……うん。また今度、なにか作るよ。迷惑でなければ……だけど」
「あー、そっちね。もちろん、そっちもうまかったけど……」
「そっち?」
卓巳君は私の腕をつかんでスッと引き寄せた。そして耳もとで囁く。
「萌香ちゃんもおいしかった。ごちそーさま」
耳に熱い息がかかる。
くすぐったくて思わず耳を押さえる。
うろたえている私の様子に、卓巳君は楽しそうに笑ってた。