不機嫌でかつスイートなカラダ ベリーズ文庫版
「それでも、好きなんだよね?」


私の言葉に、沙耶は小さくうなずいた。

出会ってすぐ恋に落ちた沙耶。

彼が既婚者だと知ったときには、もう気持ちを抑えることができなかったらしい。


私と沙耶。
立場はちがうけど、恋する気持ちは同じなんだと思う。

私だって、もしも卓巳君に彼女がいるってわかったとしても、すぐに切り替えられるほど、この想いは単純じゃない。

だけど本当に彼女がいたら、私はどうするんだろう。

今まで考えないようにしてきたことだけど、いつか真実に直面する日がやってくるのかな。

そんなこと考えていたら、ふいに沙耶の足が止まった。


「あ……」

「どうしたの?」

「噂をすれば。あれ、卓巳君じゃない?」と、沙耶が駅前のロータリーを指差す。


そこにはたしかに卓巳君の姿があった。

ベンチに座ってスマホを触っている。

私達の存在にはまるで気づいていない。


「ほらっ。なにしてんの? 声かけなよ」


沙耶が肘で私をつつく。


「う、うん……」


一歩踏みだそうとしたその時、

卓巳君がふいに顔を上げ、誰かに手を振った。


「おい! こっちこっち! 和美!」

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