孤独な歌姫 緩やかに沈む
見つめ合ったら恋愛モード
「わぁ、ひどい。まずいなぁ、今日はジャケ撮りもあるのに」
私は目の前の自分に思わず独り言を漏らした。
だって余りにも酷い顔だ。
目の下にクマができていて肌も荒れている。目の下のクマを人差し指で摩りながら、「ねぇ、伶くん。これ、化粧で隠せるかなぁ」と言った。
「夢羽さん、酷いクマだね。女の子なんだからもっとお肌とか大切にしようよ」
呆れたようにクレンジングで私のうっすらしているメイクを落としていくのはヘアメイク担当の石谷 伶くんだ。
ひょろっとした痩身のメガネの彼は28歳の私の専属メイクだ。たまに出張メイクなどもしているが、ほぼ私の仕事を優先してスケジュールを入れてくれている。
その彼に私はついつい言い訳を。
「してるよぉ。昨日だってちゃんとパックしてから寝たし。そもそも打ち上げが3時に終わったんだから」
「あのあと、また飲みに行ったんだ? 懲りないねぇ、夢羽さんも」
それを言われちゃうとちょっと悔しいけど、最近の若者は……「伶くんは若いのに根性ないよ。11時に帰るなんて有りえなーい」……根性が足りんのだよ!
「俺がいてもいなくてもわかんなかったでしょ。生憎、家には可愛い彼女が待ってるんで」
「はぁ~?」
『彼女』という言葉につい後ろを振り返る。そんな私を容赦ない言葉を浴びせるのはこの二人しかいない。
「「夢羽さん、動かないで!!」」
「……はぁーい」
伶くんは丁寧に化粧を落とした後、たっぷりの化粧水を自分の手のひらに乗せている。
もうひとりの声の主は私の爪に豪華なネイルアートを施していた。いや、ホントは彼女は衣装担当のカオリンこと竹野 香梨ちゃんなんだけどね。
彼女はお遊びでいつも私のネイルを弄る。
上手だから許してあげてんの。
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