孤独な歌姫 緩やかに沈む
芸能人御用達のクラブの入口には厳つい男二人が立ちはだかってる。
でも、私がグラサンを少しずらせば、何も言わなくても通してくれるんだ。
クラブの中に入るまでは少し廊下が長い。
中から音が漏れ出ているけど、それでもその独りの空間から逃げたくなって足早になった。一般人とは違う出入り口に通されてVIPルームに通された。
「……誰か探してから来るんだった」
スマホを弄って誰かすぐに来れそうな人を探そうと思ったけど……途中でやめた。
なんか虚しくなっちゃって。
どうでもよくなった。
黒革のソファのクッションに頭を預ける。下の階では大勢の人が音楽を楽しんでる。でも、私はここでも独りだ。仕事では皆、ちやほやしてくれてもプライベートでは一人ぼっち。
ワケもなく視界がボヤける。
……一人にしないでって……誰か一緒にいてって言えたらどんなに楽なんだろう。誰かを探す指は止まってしまったけれど、手からスマホを離すことなんてできなかった。
そしたら、スマホが私の気持ちを読み取ってくれたのかな? だってヴー、ヴーって震えたから。急いでディスプレイを見たら、よく知っている名前で溢れそうになってた涙が頬を伝う。
「怜くん……?」