孤独な歌姫 緩やかに沈む
というかまだ先程の気になる言葉が。
「伶くん、彼女なんて出まかせを。どうせティーカッププードルのラブちゃんでしょ? ペットは彼女になんないわよ」
フフン、と笑った彼は私の髪を梳かしながら、得意げに「何言ってんですか。ラブは立派な俺の彼女」と言う。
やっぱりね。あ、これはね?
別に彼に惚れてるわけじゃないんだ。
ただ、独身、独り身の人が減ると焦るわけよ、私的には。特に理由もないけどね? 皆が幸せだとなんだかつまんない。ホッとした私はついにやけ顔で「ばぁーか」とか言っちゃう。
こういう言い方もしかして可愛くない? でも、35を越えようとしている女としてはなかなか可愛い言葉ってのは出てこないもんよ。
「でも、わんちゃんって可愛いですよね! 夢羽さんは飼ったりしないんですか」
「しないわよ、面倒だもん」
ああ、これも可愛くないよね! でも、ホントに面倒なの、動物って。
「癒されるのになぁ」
カオリンはプウ、と頬を膨らませて私の爪をネイルドライヤーで乾かし始めた。
キラキラ輝く大きなスワフロスキーのストーンと小さめのストーンが織り成すネイルアートは小さめのティアラみたいだ。そのネイルとは関係なくカオリンは犬、いや、わんちゃんがどんだけ可愛いかをアピールしてくる。
「ねぇ? 私も柴犬飼ってますけどあの愛らしい目んめがもう! もう!」
「だよな、だよなぁ! この感覚が夢羽さんにわかんないなんて」
「ねぇ?」
「可愛くないとは言ってない。めんどくさいの」
「うわ、今のひと言、女子力下がりっぱなし」
ネイルアートが施し終えたカオリンが衣装を颯爽と持ってくる。これまたボリュームのあるドレスだ。
「でも、大丈夫デス! 今から夢羽さんは立派なお姫様デス! 最高に綺麗ですよ!」
「うん、夢羽さん、綺麗だよ。やっぱり俺、天才だな」
「うるさい、君たち」
ホントだ。さっきとは全くの別人。目の前には楠本 弥來ではなく歌姫の『MU』が立っている。
「行こうか」