孤独な歌姫 緩やかに沈む
赤面しながら頭を掻く彼に特に理由はないけれど好感を持った。
「なんか君島くんって不思議な人だね」
なんだか若い時……芸能界に入ったばかりの時を思い出す。大人のお世辞やお付き合いなんかを何にも知らなかったあの頃。素直に褒め言葉を褒め言葉として捉えられる純情さ、とでも言おうか、そんな彼が羨ましかったのかもしれない。
「え……不思議……スか……」
「うん、不思議」
羨ましい、とは思うけど嫉妬じゃないと思う。
だって彼と話しているとなんだか癒されたから。
「は……ハハ」
「取り繕うのがバカバカしくなっちゃう。なんでかな」
タクシーを待たせてあったから、彼とは話してはいたけど、少し歩き出して帰る素振りを見せたんだ。そしたら、彼が私に声をかけた。
「あ、あの!! これから……飲み直しませんか?!」
思いもよらなかった誘いに思わず、目が点になる。返答に困って「あー……嬉しいけど、明日仕事なの」と言ったけど、君島くんは引き下がらなかった。
「じゃ、連絡先だけでも!」
「そういうのはちょっと、ネ」
困惑気味にタクシーにドアを開けて立ち去ろうとしたけど、彼の言葉に私の足が止まった。
「いつでも話聞くんで!」
“いつでも”……?
心が揺れる。僅かな時間ではあるけれど、なんとなく癒される気がする君島くん。スレてない彼。
「いつでも呼び出してもらっていいし!」
「……いつ……で、も……?」