孤独な歌姫 緩やかに沈む
トレーニングルームの直接行こうと思って歩き出したはいいけど、足取りはかなり重い。
「夢羽さん!」
「……!」
「お願い、来ないで。一人になって練習したいから」
トレーニングルームまで怜くんは追っかけて来ていた。悪いけど、こんな格好悪い自分を誰にも見られたくない。誰かと喋ったら、相手が誰であろうと罵ってしまいそうな気分の悪さだ。
「待って!」
「一人になりたい」
「夢羽さん……聞いて」
トレーニングルームで怜くんは後ろから私を抱きしめる。
「……」
怜くんの言葉を黙って聞いていた。
「酷なこと言うようだけど……こういう世界ってさ。浮き沈みは絶対あるんだよ。ずーっと女王ではいられないんだ。細くなっても長く長くやっていければいいよ。長くずっと続けていくことにだって絶対意味があるから」
そう思ってずっとやってきたんじゃん。
事務所のために自分のために身を粉にして働き蜂みたいにガムシャラに突っ走ってきたんじゃん。
それでもはっきりと“潮時”って言われてる。
「……何言ってんの。潮時って言われてたじゃん」
「夢羽さんは仕事まだたくさんあるでしょ。一つ一つちゃんとこなしていけば誰かが絶対見てるから」
「わかってるよ……」
怜くんの言っていることはわかる。でも、目に見えた成果がないと。誰か褒めてくんないと。今にも倒れそうな私にっては所長たちの言葉は突き刺さった。
突っ走ってきたけど、誰かに寄りかかったら、どうなるんだろう。立ち止まってしまったら、私の歌はどうなるんだろう。
トレーニングルームは一部ガラス張りになってる。その向こうからカオリンが私たちを見ていた。私の視線とカオリンの視線がかち合って慌ててドン、と怜くんの胸を押す。
「わかってる! だけど、手を抜いたことなんて一度もない! それでも堕ちていくんだから仕方ないじゃん」
彼女の冷たい視線が私の心を急速に冷ましていく。冷静な自分を引き戻して背筋を伸ばした。
誰かに寄りかかってしまったら、きっと終わりなんだ。
立ち止まったら……ダメだ……
「夢羽さん……」
「お願い、放っておいて」