孤独な歌姫 緩やかに沈む
名残惜しそうに怜くんの手が私を追いかけようとする。それをするりと抜けて鞄の中の楽譜に向き合った。メロディもイメージも湧き上がってこないけど、只管、怜くんがトレーニングルームから去るのを待っていた。
……彼は黙ったまま、出てった。
うん、これでいいんだ。誰かに何かを期待しても頼っても自分は救われない。自分を救うことができるのは自分だけなんだから。
そう自分に言い聞かせて、ただ、楽譜に連なってる音符を口ずさんでみる。
メロディと自分の寂しい感情が徐々に重なっていく。
ああ、これはきっと『片思いの恋』を連想する歌になる。
そんな予想を頭に浮かべて、『また、片恋の歌か』と、自嘲気味に笑った。恋もしていない自分が恋の歌なんて。恋なんて久しい感情はどこに置いてきたんだか。
それでも『恋しい』という感情は胸の内から消えてない。“また誰かに恋をしたい”という気持ちの表れと恋をしている一般の女性たちに対する憧れなんだろう。客観的に自分を分析すると余計に歌の詩は破滅の恋やら、切ない恋になることが多かった。