孤独な歌姫 緩やかに沈む
少しメロディと感情が波に乗ってきてそれが私の筆を走らせる。
楽譜に赤のボールペンで何度も詩を書き直しているうち、トレーニングルームを使うミュージシャンたちが事務所に入ってきて、どうやら彼らのトレーニングの時間になったのだ、と気がついた。
「もうこんな時間か」
カオリンたちの悪口を聞いても。社長と吉井マネの話を立ち聞きしても。私も10代の女の子じゃない。狼狽えている場合じゃないんだ。
私はレコーディングの時間まで作詞活動を一旦やめて今度リリースする曲のメロディと歌い方を頭に叩き込む。もう何度も歌って練習した痕が楽譜に残ってる。
少し皺になった楽譜。
強調するように楽譜の記号に付けられた赤丸。
……今度は社長たちが納得する数字が出せるんだろうか。
…………今は集中しないと!
雑念が入っている時は大概上手く歌えない。レコーディングルームに入り、スタッフたちも揃った。既に何度か歌い終えた後だった。
「……もう一度お願いします」
私の声がガラス張りの向こうのスタッフたちに伝わるとまた彼らのため息が聞こえるようだった。
私はワガママなお姫様なんだろうか。
それとも裸の王様ならぬ裸の女王様か。
集中できないと更に歌は歌えなくなってた。