孤独な歌姫 緩やかに沈む
「夢羽、もう用意できてるわね」
「勿論」
私を呼びに来たマネージャーの吉住さんが私の背中を力強く押す。
私はピン、と背筋を伸ばして廊下を歩き始めた。後ろからカオリンと伶くんもついてくる。向かうは眩く輝くステージ。この上はさ。限られた人間のみしか立つことを許されない。
小さなハコで今日は3曲だけ歌う予定。暗がりの中で一番最初の曲のポーズを取る。ステージ横にスタンバイしたピアノが最初の音を奏でたとき、熱いスポットライトが私を照らした。
ステージからだと意外に観客たちの顔がよく見える。私の場合、ファンは女の子が多い。その彼女たちの顔を一人一人見ると何故か心が落ち着いてくるんだ。
高揚した顔。
泣きそうな顔。
期待している顔。
そのどの顔も私の歌声を待っている。メロディに感情を乗せて歌い始めると物語の中に入り込むように私も曲の中に馴染んでいく。
最初からその曲の中にいたように。
私の歌声を聞いてうっとりしている観客たちを見て、私もうっとりする。
彼女たちの心にこの曲が響けばいいな、と願いながら。