孤独な歌姫 緩やかに沈む
悲壮回想モード
――――彼はいつも私に対して厳しかった。
それが嬉しくもあり、その期待に応えたいとも思って頑張ったんだ。
まだ10代だったあの頃。右も左もわからない私にそんな言葉を掛けてくれたのは佐倉さんだった。
「お前は才能がある」
「……ほんと?」
信じられない気持ちで目の前のヒットメーカーと言われている佐倉さんを見た。
ディレクターの佐倉さんは私の頭を優しく撫でた。私を目の前に立たせてそっと両手を握った。
「夢羽、お前はな。日本の誰もが羨む歌手になる」
「ははッ……まだ無名ですよ……?」
真剣な佐倉さんの眼差しに動揺しながらも私はぎこちなく笑った。
「俺が有名にしてやる」
「…………」
「いつでも口ずさみたくなるようなそんな曲歌わせてやる」
「……どんな歌?」
「聞いたら歌わずにはいられなくなるぞ?」
「聞いてみたい」
迷いなんてなかった。
歌のためならなんだって。
実際、佐倉さんが手掛ける曲にはいつも心揺さぶられる。
口ずさみたい歌。涙が自然と流れ落ちる歌。
どれもが彼が生み出してきた歌たちだ。そのためならなんだって。そのためなら佐倉さんに恋することだってできる。
彼の膝の上に乗った私は目を瞑って彼に口付ける。
触れた先は闇。
闇の先には私の歌。
光があるんだ。